茶色の短髪で、細身の長身にブラックスーツがフィットしている。胸元からは紫のネクタイが光沢を放っていた。
一目で堅気ではないことが分かる。
「何ビクついてんだよ、格好悪い」
男が最初より幾らか高い声を発した。
というより、今のが地声である。
前野に向かって意地の悪い笑みを浮かべていた。
「なんだよ! 脅かすなよ……待ち合わせ場所、ここじゃねえだろ?」
前野が色をなして言い放つと、前を向いて再び歩き出した。
声色を変えてイタズラをした男は前野の友人、浅見涼だった。
「ハハハー、早く着いたから迎えに来てやったんだ。オメエが振り向いた時の顔、傑作だったぜ!」
涼が勝ち誇った表情で肩を並べてきた。
歩道の道幅は2人が横に並んで歩ける程度だった。
「今度そんな嫌がらせしたら、この仕事やめるぜ」
前野が正面を見据えたまま声を尖らせた。
「そうカッカすんなって。おいしい仕事を与えてやってんだから……それより、今日は成功したのか?」
「ああ、一応な。運が良くて楽だった。持ち主が机に放置してたからな」
前野はポケットから折り畳み式携帯電話を出して、涼に渡した。
涼はその携帯を開け、画面を見ながらボタンを押し始めた。
いつもの動作だ。電話帳や送受信されているメールのチェックをしているのだろう。
「うん、間違いないな。持ち主は甲城大学の学生だ。上出来!」