涼はスーツの内ポケットから黒皮の財布を取り出した。
よれよれの一万円札20枚を前野に手渡す。

「相変わらずだな。封筒に入れるぐらいしろよ」

「携帯確かめるまで額を決められねえんだから、しょうがねえだろ」

呆れ顔の前野に答えた涼は、自動販売機の前で立ち止まり、コインを挿入した。
ランプが点くや、涼の背後から前野の手が伸びてきてボタンが押された。
普段吸う銘柄と異なるメンソール煙草が落ちてきた。

「何すんだよ! 違えだろ」

「さっき脅された分のお返しだ」

前野が意地の悪い笑みを浮かべた。

「チッ!……まじーぜ、これ」

涼は煙草を一吸いすると道路に唾を吐いた。

「なかなか似合ったスーツだな。これから仕事か?」

「おう、借金の取り立てだ。格好だけでもビシッとしてなきゃナメられるからな」

「大変だな、ヤミ金は」

「でも儲かるぜ。オメエも学生なんてちんけなもん辞めて、俺の世界に就職しちゃえよ」

「冗談言うなよ。俺はゆくゆく真面目なサラリーマンになるつもりだ。涼とは心が違うからな」

「よく言うぜ。こんな事やってる癖に」

涼は前野から渡された携帯電話を見せつけた。