前野の目は充血していた。
好きな女の子と初めてデートする前日でさえ緊張するのに、大ファンのアイドルに会えるとなれば眠れるはずがない。
しかし寝不足なんてどこへやら、体中に力が漲っていた。

前野は目白駅の改札を出た。
穏やかな真昼の快晴。風が無く、まるで春の暖かさである。
幸福そうなカップルばかりが視界に入ってくる。
いつか、アマと二人で堂々と外を歩きたいと思った。

約束の13時にアマの家に着くように、歩幅を調整しながら歩いた。
昨夜、最後にアマから受信した住所をコンビニの地図で調べたら、駅から1キロぐらい離れていた。
立ち並ぶ家の住所を次々確認していく。
急に、前野は立ち止まった。
返却するために持ってきたアマの携帯から、ベル音が鳴ったからだ。

非通知設定のベルはずっと鳴り続けた。

前野は少し怖れながら携帯を耳に当てた。