(かなり疲れているな……)

 前野は売れっ子アイドルの孤独さを垣間見た気がした。
 アマはテレビでは天然を装っているが、実際は芯がしっかりした女性であると感じた。
 自分にだけ悩みを打ち明けられて、彼女に親近感を抱いた。


『夢と現実のギャップは厳しいと思いますが、アマさんは自分を見失わないようにがんばって下さい。
平凡な答えしか言えませんが、僕でよければいつでも相談にのります』


『本当ですか? とっても嬉しいです。なんだか利樹さんっていい人そう。
宜しければ、明日は私の家に来てもらえませんか? ゆっくり話しがしたいな。
せっかくの貴重な休日を独りで過ごすのは寂しいと思っていたんです。一緒に住むマチは仕事だし……』


前野は立ち上がった。天井からぶら下がった白色電球が、一気に舞った埃を照らす。


『僕はかまいませんが、本気ですか?
会ったことのない一般人を、いきなり家に呼んでもいいんですか?』


『ええ、大丈夫です。芸能人の一番安全な場所は家の中なんです。外は週刊誌のカメラマンが至る所で張っています。お食事している現場を撮られたら、利樹さんにも迷惑が掛かります。それに、もうすぐ引っ越すので知らない人に住所を知られてもかまいません。
あっ、これは利樹さんが住所を悪用すると疑っているわけではないので、勘違いしないで下さいね。
後で住所を送信しておきますので、13時に直接家に来て下さい。直前に何か起きたら電話をするので、それには出て下さいね』