『私の都合が良い日は明日なんですけど……
あと、つかぬ事を伺いますが、携帯の中身を御覧になりましたか?』


前野は混迷した。本当の事を言うべきか否か?
他人のメールや電話帳の覗きは最低行為だ。
しかし、見てないとシラを切れば、アマは自分の素性を隠して突き通すかもしれない。

(何とかメールの会話だけでも膨らましたい)

アマと知り合いになりたいという、一旦諦めたはずの欲求が湧いてきた。

ふと、初めてアマの携帯画面を見た時のことを思い出す。

福ちゃんからの『明日は久しぶりの休みだからたっぷり睡眠とっといて。明後日はお偉いさんがいらっしゃるから遅刻しないようにね』というメールが表示されていた事を……。

『中身は見てないですけど、携帯を拾った時に画面を見たら、一通のメール本文が表示されていました。それは読んでしまいました、すいません。
なにか、忙しい日々を送っていらっしゃるように感じました。大変なお仕事でもされているのですか?』


前野は、さも一通のメールだけを見たかのような文章を送った。

(仕事の話しをふれば、何か応えてくれるかもしれない)

数分後、淡い期待を抱いていた前野にメールが届いた。


『はい、結構忙しいお仕事をさせてもらっています。ストレスが多くて大変です! 明日は久しぶりの休みなんですよ。
あっ、受け渡しは明日でも大丈夫でしょうか?』


前野の口元が緩む。まあまあの手応えを感じた。