前野は呼吸の仕方を忘れるぐらい興奮していた。
アマの大ファンだからである。

ちなみに前野の携帯の待受画面はアマだ。
以前無くした携帯の待受画面も無名時代のアマだった。
前野は逸早くアマの美貌に惹かれていたのだ。

突然、アマの最新曲が流れてきた。前野の携帯から鳴った着メロだった。

「やっと金の取り立てが終わったぜ。どうだ、今から飲まねえか?」

受話器から涼の揚々とした声が聞こえてきた。

「……いや、今日はやめとく」

前野は、必死に気持ちを落ち着けつつ声を絞りだした。

「ええーっ!? せっかくハプニングがあったんだぜ。保証人がいきなり喉元に包丁つきつけて、死んでやるう~って叫んだんだ。その修羅場を俺がどう収めたのかっ! 聞きたくねーのか?!」

普段なら驚くところだが、今前野が体験していることはそれ以上のことだ。

「悪いけど、またにしてくれ。ちょっとやる事あってな……なあ、涼」

「なんだよ?」

前野が誘いに乗らなかったからか、涼の返事は不機嫌そうだった。

「もし仮に、芸能人の携帯を拾ったとしたらいくらの値がつく?」

「……そうだな、タレントの質にもよるけど一万前後ってとこだな」 

「そんなに安いのか?」